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コーチングコラム

コーチへのヒント「知覚のマジック」

第3回 YES, WE CAN. オバマの言葉のマジック

先日のオバマのスピーチをライブで聴いて見て、私と同じようにその言葉のマジックに引き込まれてしまった人は多いのではないでしょうか。さて、バラク・オバマの大統領選挙勝利演説(米国現地時間08年11月4日夜)の 原文 をところどころ意訳しながらですが、言葉のマジックを探究していきましょう。アンダーラインは注目点。青い文字は私の解説です。

Link : YouTube - President-Elect Barack Obama in Chicago ハロー、シカゴ。
もしこの中に、アメリカは全てが可能な場所であるということに疑いを持っている人がいまだにいるならば、建国の祖の夢が生きていることに懐疑的な人がいまだにいるならば、民主主義の力に疑問を抱く人がいまだにいるならば、今夜が答えだ。(同じフレーズを繰り返しながらメッセージを展開するのはマーティン・ルーサー・キング牧師が得意とした手法であり、インパクトが強く、記憶に残る)
これこそが答えだ。投票所の長い列に3−4時間並び、生涯で初めての投票だという人も多いが、今回は違うと信じた人々が出した答えだ。
これこそが答えだ。老いも若きも、お金持ちも貧しい人も、民主党員と共和党員、黒人、白人、ラテン系、アジア系、先住民族、同性愛者とそうでない人、身障者と健常者、全ての人々が出した答えだ。いままで赤い州(共和党)と青い州(民主党)であったことなどなく、私たちは今も、常にこれからも団結したアメリカ合衆国なのだ。(現在完了形→現在形→未来形と連続して使うことで時制のマジックが起きる。これまでも、今も、これからも、ずっと・・・というように強化される。また We are The United ・・・ という文章は聴衆に「私たちは団結している」と「私たちはアメリカ合衆国」という二つの意味を埋め込むことになる)
これこそが答えだ。長い間、皮肉や疑いにさらされながら、より良い日がやってくる希望を持って生きてきた人々がもたらした答えだ。
長い時間がかかったが(アメリカ南部の黒人が好んだ反体制歌詞から引用している)、私たちが今夜、選挙という決定的瞬間に成し遂げたことによって、変革がアメリカにやってきたのだ。

私はさきほどマケイン上院議員から丁重な電話をいただいた。彼は長くハードな戦いを演じたが、彼は愛する国のためにさらに長くハードに戦ってきたのだ。彼は想像することが出来ないほどアメリカへの自己犠牲に耐えてきた。私たちはこの勇敢無欲なリーダーによって尽くされた奉仕のおかげで暮らしが良くなった。私は彼とペイリン知事が成し遂げたすべてを祝福したい。そしてわが国の約束を更新するために彼らとともに働くことを楽しみにしている。(昨日までのライバルを称えることを通して、分断された国民を統合しようとしている。また、マケインの「アメリカへの自己犠牲」「勇敢」「無欲」というリソースを紹介しながら、聴衆から同様のリソースを呼び起こしている)

この旅のパートナーにお礼を言いたい。次期副大統領に決まったジョー・バイデンだ。(「旅」というメタファーを使うことを通して長く続くプロセスの中にいることを暗示している)
この16年間の親友のサポートがなければ今夜ここに立つことはなかった。それは次期大統領夫人ミシェル・オバマ。私の愛する娘、サーシャとマリア。君たちにはホワイトハウスで飼う新しい子犬を買ってあげよう。そして、もはや会うことはできないが祖母が見ていてくれていることはわかっている。そして会えなくて寂しいが私のアイデンティティを作ってくれた私の家族への恩義は計り知れない。
選挙戦のスタッフが勝利のために果たしてくれたことに対しては忘れることなど出来ないほどの感謝を感じている。
しかし何にもまして私はこの勝利が誰のものかを決して忘れてはいない。それはあなた方のものなのだ。

私は決して政権に最有望な候補者ではなかった。金も後援も充分にあって始めたのではない。勤労者たちが5ドル、10ドル、20ドルと献金してくれた。無関心世代と呼ばれる若ものたちが献身的に関わってくれた。若くはない人々が極寒の日も酷暑の日も見知らぬ人の家を訪問してくれた。このように何百万ものアメリカ人が自発的に参加してくれたので選挙運動は力を得たのだ。そして2世紀以上も前の「人民の、人民のための、人民による政治」が消えてはいなかったことが示された。これはあなた方の勝利なのだ。(リンカーンのゲチスバーグでの演説を引用して、支持者の働きとアメリカの民主主義の誇り高い伝統とを結合して勇気付けている。またリンカーンが共和党の大統領であることから、民主党のオバマがその言葉通りに党派を超えてアメリカ合衆国をひとつに統合したいという意図が表れている)

私はあなた方が選挙に勝つために、私のために参加したのではないことを知っている。今夜はお祝いをしているが、私たちの人生で最大のチャレンジが明日にはやってくるということを承知している。2つの戦争(イラク、アフガン)、危機に直面する地球、100年に一度の金融危機だ。今夜、私たちはここに立っているが、まさにこのとき勇敢なアメリカ人たちがイラクの砂漠やアフガニスタンの山の中で、生命の危険にさらされながら目を覚ましていることを知っている。(このあたりから「あなた方」よりも「私たち」を多く使い始めている。「Weメッセージ」を使うことで連帯感を強化していると同時に責任を共有しようとしている)

子供たちが眠りについた後も、住宅ローンや診療費のことを心配し、子供たちの進学費用のことで悩んでいる親が大勢いる。私たちは自然の力を活用して新しいエネルギーを、そして新しい仕事を創造しなければならない。新しい学校を建設し、脅威に立ち向かい、同盟関係を回復するのだ。

前途は長く、上るべき坂は険しい。1年や1期(任期)では到達できないかもしれないが、私は今夜ほどその期待を強く抱いたことはない。約束する。私たちは必ずや到達すると。
後退も躓きもあるだろう。私が大統領として決断することの全てに賛成できない人も大勢いるだろう。そして政府がすべての問題を解決することは出来ない(国民の期待値を下げ、現実的な面を意識させようとしている)ということを私たちは承知している。しかし私は私たちが直面する困難について常に正直でいる。私はあなたの声に耳を傾ける。とりわけ意見が不一致しているときには。そして何よりもあなた方にお願いしたいことは(国民に要求しているくだりは、ジョン・F・ケネディ大統領の就任演説の内容を思い出させる)、この国を作りかえる仕事に参加していただきたいということ。その唯一のやり方は221年間に亘って成し遂げてきた方法、すなわちひとつひとつのブロックをひとつひとつのレンガをたこができた手と手で積み上げてきたやり方だ。

21ヶ月前、真冬に始まったことをこの秋に終わらせることをしてはいけない。この勝利だけが私たちが欲しかった変化(チェンジ)ではない。これは変化のためのチャンスに過ぎないのだ。そして以前からのやり方に戻ってしまったら、変化は起こりえない。あなた方なしでは起こらないのだ。(「チェンジ」と「チャンス」のように音韻の似た言葉を並べて詩的な表現にするという手法がこの後も何度か使われていく)

だから新しい愛国心を、奉仕と責任の精神を呼び覚まそう。ひとりひとりが解決に取り組み、もっと努力し、自分のことだけではなく他の人々の世話を焼こう。今起きている金融危機からの教訓を忘れないようにしよう。それはメインストリート(一般的な中央通りで仕事をする人々)が苦しんでいながらウォールストリートが繁栄することなどありえないということだ。私たちはともに立ち上がるか、倒れるかだ(リアルな時事問題を使って、一体感を作り出している。選択肢を示しているようでいて、実は二者択一。緊急性を呼び起こしている)

同じような党派対立やつまらない争いや未熟さに戻る誘惑に抵抗しよう。それらがこの国の政治を長い間毒してきたのだから。共和党の旗を掲げてはじめてホワイトハウス入りしたのはこの州の出身者であることを思い出そう。共和党は自助自立、自由、そして国家の統一という価値観に根ざしている。それらの価値観は私たちの全てが共有しているものだ(共和党の理念を紹介し、尊重し、それらは共有されていると宣言することで党派を超えた高い論理レベル《メタ・レベル》に移行し、より大きなシステムである国家を統合しようとしている)。一方で民主党は今夜確かに大勝利を得たが、私たちは謙虚さと決意を持って、この国の進歩を阻んできた分断を癒していく。今よりももっと分断されていた時代にリンカーンが(その大統領就任演説で)国民に対して語ったように、「私たちは敵ではなく、友人だ。感情的な緊張はあったとしても愛の絆を断ってはいけない」のだ。そして私がまだ支持を得られていないアメリカ人たちに対し、私はあなたの投票(ヴォート)を得られなかったが、しかし私はあなたの声(ヴォイス)も聞こえている。私はあなた方の助けが必要であり、それから私はあなた方の大統領にもなるのだ。(「まだ」という表現は、そのうちに支持を得られるということが前提となっている。そして「今回の不支持者の支持を得る」 → 「皆の大統領になる」と接続している。また過去形→現在形→未来形の時制のマジックも機能している)

そして海外から注目してくれている全ての人々に対し、議会や公邸で見ている人々、あるいは忘れ去られた世界の片隅でラジオの周りに集まっている人々もいるだろう。私たちの物語は異なっているが、私たちの運命は共有のものだ。そしてアメリカのリーダーシップの夜明けはそこにきている(世界は運命共同体であると示唆し、アメリカのリーダーシップの夜明けの宣言を接続することで今後もアメリカは世界をリードする立場にあることを暗示している)世界を引き裂こうとする者たちに対し、私たちはあなた方を打ち負かす。平和と安全を求める人々に対し、私たちはあなた方を支援する。そしてアメリカの希望のかがり火はいまだに輝いているのかどうかを疑っている全ての人々に対し、今夜私たちは再び証明した。私たちの国の力とは武力や富の巨大さから来るものではなく、この国の力は民主主義、自由、機会、そして屈することのない希望から来るものであるということを。
それこそがアメリカの真髄だ。アメリカは変わることが出来る。私たちの連帯は完全になりうるのだ。私たちがこれまで成し遂げてきたことを見れば、私たちに何が可能であり、何を達成しなければならないのかについて希望を与えてくれる(過去の実績は未来の希望を与えるという強い接続を暗示する因果関係の表現。この後に続く「過去の困難克服の物語」の予告になっている)

今回の選挙では多くの「初の・・」があり、多くの物語が世代を超えて語り継がれていくだろう。しかし今夜の私はひとつの物語が気になっている(気になっている・・原文ではon my mind ・・。黒人歌手レイ・チャールズの大ヒット曲“Georgia On My Mind /わが心のジョージア”から引用している。アトランタはジョージア州の州都)。それはアトランタで投票してくれた一人の女性の物語だ。彼女は他の何百万という人々と同じように、この選挙に自分の声を反映させようと列に並んだ。ただひとつだけ他の人々と違うのは、彼女、アン・ニクソン・クーパーさんは106歳だということ。
奴隷制が終焉した次の世代に生まれた彼女。道路に自動車はなく、空に飛行機が飛んでいなかった時代。その時代、彼女のような人は2つの理由で投票することは出来なかった。女性であるということと肌の色という理由で。

そして私は今夜、彼女が1世紀を通して見たあらゆる出来事に思いを巡らしている(オバマ本人ではなく、1世紀を生きてきた女性の目を通して振り返る。このように知覚の位置を変えることで、知識としての歴史ではなくリアルな歴史の経験を語り、インパクトを強めていく。ここからスピーチ全体のハイライトに入っていく)。悲痛と希望、混乱と進歩、人々が出来ないとあきらめていたときにアメリカの信条に駆り立てられて進んでいた人々。その信条とは、YES WE CAN.私たちはできる!(アメリカの信条として一般化された「私たちはできる!」という言葉が、この後の流れでは困難を克服した過去の実績と結びついて、過去にも出来たことだから現在の私たちにも出来ると連結する役割を果たしている。これも時制のマジック)
女性は沈黙を余儀なくされ、その希望は否定されていた時代に、女性たちが立ち上がり、声を上げ、ついに選挙権を獲得したのを彼女は目撃した。YES WE CAN.私たちはできる!
中西部の黄塵地帯が絶望に陥ったとき、大恐慌が国中を襲ったとき、国民が「ニューディール政策」と新しい仕事と共有する新しい目的意識によって恐れを克服するのを目撃した。YES WE CAN.私たちはできる!

私たちの港に爆弾が投下され、独裁が世界を支配しようとしていたとき、国民が立ち上がり、民主主義を守るという偉業を達成するのを目撃した(日本軍によるオアフ島真珠湾奇襲攻撃のことや第二次世界大戦のことだが、間接的な表現にしている)。YES WE CAN.私たちはできる!

モンゴメリでのバス事件、バーミングハムでの消化ホース事件、セルマでの橋の事件、そしてアトランタ出身の牧師が人々に「私たちは打ち勝つ!」と語ったとき(アラバマ州モンゴメリで黒人女性がバスの席を白人に譲らなかったことで逮捕されたことを契機にバス乗車ボイコット運動に発展した事件のこと。バーミングハムでデモに参加していた黒人青年たちに高圧ホースで水をかけて怪我を負わせた事件のこと。選挙権獲得を目指す大行進の際にアラバマ川に面したセルマのエドマンド・ペタス橋を渡った地点で騎馬警官たちに行進を阻止され、襲撃された「血の日曜日」事件のこと。この牧師はもちろん、これらの事件で常にリーダーシップを発揮したキング牧師のこと。「私たちは打ち勝つ!」はデモで歌われた黒人霊歌の歌詞を引用。このように間接的な表現を通して、様々な歴史のエピソードを想起させ、聴衆の顕在意識と無意識の両方をつかんでいる)、彼女は時代を共有した。YES WE CAN.私たちはできる!

人間が月面に着陸(タッチダウン)(着陸をフットボールに使うtouch down と表現することで、得点勝利を想起させている)、ベルリンの壁が崩壊し、私たちの科学と想像力によって世界がつながった。そして今年、今回の選挙で彼女はスクリーンに指を触れ(タッチ)、投票した。なぜなら誕生から106年、数々の最高のときと最悪なときを経て、彼女はアメリカがどのように変わることが出来るのかを知っているからだ(過去、時を通過、現在という時制のマジック)。YES WE CAN.私たちはできる!

アメリカよ!私たちはこんなに遠くまで歩んできた。本当に多くのことを見てきた。しかしなさねばならぬことが本当にたくさんある。だから今夜は、私たちは自分に問うてみよう。もしも私たちの子供たちが次の世紀を見るまで生きられたとしたら、もしも私の娘たちが幸運なことに、アン・ニクソン・クーパーさんと同じくらい長く生きられたとしたら、彼らは何を見るのだろうか私たちはどのような進歩を遂げているのか(過去の実績を一般的に振り返り、現在の困難に意識を向け、そして未来の希望につなげている。典型的な時制のマジック)

その問い(「問いかけ」・・英語ではcallだが、これは「使命」「天職」という意味を含んでいるので、聴衆には「問いかけ」という意味以上のメッセージを送っている)に応えるチャンスを手にした。まさに私たちの歴史的な瞬間であり、私たちの「そのとき」だ。私たちは人々が仕事につけるように、そして子供たちのためにチャンスの扉を開き、繁栄を回復し、平和を推進すべきときなのだ。アメリカの夢を開拓し、基本的な真理を再確認するときだ。すなわち、大勢の中にあっても私たちはひとつだということ。呼吸し続ける限り、私たちは希望を持ち、そして冷笑と疑いに出会ったときや出来ないと言う人々に対して、ひとつの国民のスピリットを一言で言い表す不朽の信条で応えよう。
YES WE CAN.私たちはできる!
ありがとう。神の祝福を。アメリカ合衆国に神のご加護を!

さて、オバマのスピーチの紹介と解説がずいぶん長くなりましたが、まとめていきましょう。
このスピーチで彼がもっとも意図していたことは「分断された国民を統合すること」でした。そのために政策レベルのことではなく、対立を包含するようなより大きなシステムに国民の意識を導く必要がありました。スピーチの構成は、「祝福/感謝 → 現実の困難への直面 → 国民の参加要求 → 理念 → 困難克服の歴史 → 力づけ → ビジョンと責任」 というものです。そしてコンセプトは「変革(チェンジ)」と「私たちは出来る!」でした。インテンション、ストラクチャー、コンセプトが一体となった名スピーチだと思います。
また技術面の特徴としては、センテンスの繰り返しや音韻の曖昧さを活用した言葉のリズム、引用、暗示、時制(過去形→現在完了形→現在形→未来形という流れ)を巧みに使っていることがあげられます。
もちろんスピーチ原稿の卓越さが聴衆に伝わる唯一の要件ではありません。話し手の言葉、伝え方、あり方、そして生き方が一致しているときに、メッセージは人々の意識と無意識の中に入っていくのです。

2008年11月20日


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